他人敷地利用・共有名義人差押えによる任意売却のご相談|神奈川県大和市のT様の不動産売却事例
今回は、神奈川県大和市のT様の福祉事業者様からのご相談です。
このページの目次
- ご相談内容
- 相談時の状況
- 解決のポイント
- 滞納税金・病院や福祉施設の費用など1ヵ月で全て清算
- 不動産相談コンサルタント:山田のコメント
1.ご相談内容
現在は、病気で奥様が足を切断し寝たきりの状態。
更に、ご主人様が無職で息子さんが面倒を見ていたが、息子さんが多重債務になってしまい、生活保護を受けたい。
しかし、生活保護申請に行ったが不動産が有り、息子さんに収入があるため生活保護申請が却下されてしまった。
「どうすれば良いのでしょうか」
というご相談です。
2.相談時の状況
- お母さんは家で寝たきりで介護を受けている。
- お父さんは76歳無職。更に年金収入も無い状況。
- 3年位前までは長男夫婦が親の面倒を見ていたが、出て行ってしまった。
- 現在は建設業で働いている次男が親の面倒を見ている。
- 次男は財産も無く、カードローンの返済の為、介護保険料は勿論、今日の食事もギリギリで、かろうじて生活している状況。
- 建物登記はお父さんと、長男の共有名義で長男の方に税金の差し押さえがある。
- 土地登記はお父さんの単独名義。
- 建物入口が他人の敷地を利用している。
- 建物は未登記部分がある。
3.解決のポイント
- 両親が生活保護を受給するには、次男と生活を分ける必要がある。
- 両親が動けないので次男の協力が必要。
- 長男の税金差押えは延滞税が膨らみすぎて300万円を超える金額になっている。これを任意売却で役所に交渉し、抵当権を解除して貰う必要がある。
- 不動産(財産)を売却する事で生活保護が受けれる状態にする。
- 次男の収入は債務支払いの為、両親の介護保険料や生活費が払えなくなってしまった。出来るだけ早く改善し、安定した生活を確保する必要がある。
- 両親は生活保護を受ける予定なので引越先の福祉施設も生活保護に対応出来る所を選ぶ必要がある。
- 奥様が寝たきりで歩くことが出来ないので、引越先の福祉施設でも医療対応が必要。
- 荷物が沢山あるため、片づけ費用が高くなる。
- 役所の生活保護課とケアマネージャーとの連携が必要。
- 入口が隣地敷地を利用しているので、通行承諾が必要。
- 引越しのタイミングが有るため、買主に事前決済の協力を得る必要があり、しっかりした事前説明が必要。
- 施設入居の際に連帯保証人が必要。
4.滞納税金・病院や福祉施設の費用など1ヵ月で全て清算
4-1.いつ命を落としてもおかしくない、限界ギリギリの生活
- お母さんは家で寝たきりで介護を受けているので、引っ越しについて医療対応の出来る福祉施設への移転が必要で出来ればご主人も一緒に引っ越したい。
- お父さんは76歳年金受給も無く、家にいるのが精一杯で歩行がギリギリ出来る位。食事等は次男が買ってきたものを食べているが食事が無い時もあり、お母さんの介護で様子を見に来るケアマネージャーが見かねて、食事を作ってくる事もある始末。
- 現在は建設業で働いている次男が親の面倒を見ているが生活費は給料とカードローンとの併用で、ローン返済はギリギリでやっている。返済遅延は無いが、債務整理や破産はしたくない。自分一人なら何とか生活していけるという事。
- 建物はお父さんと長男の共有名義で、長男は以前から税金を滞納しており延滞税が払えず差押えをされている。今は会社と家の往復で仕事を必死にやっており、忙しく役所とも連絡は取っていない。
- 次男の収入が途絶えてしまうと両親は生活が出来なくなり、いつ命を落としてもおかしくない状態だった。生活をすぐにでも改善する必要があるが、行政が定める生活保護要件を満たせず、八方塞がりで介護の人が見かねて相談してきた。
4-2.度重なる問題が浮き彫りに
最初に不動産を売却するにあたり、問題点を調べる為、役所等の調査をした。売却に対しての問題点は下記の通りである。
- 隣地所有者の通行承諾を貰う事。
- 3階部分が未登記。
- 建築確認申請時、人工地盤を撤去する事を役所と約束していたが人工地盤を撤去せず、そのまま建築した為、検査済証が無い。
- お父さんとお母さんの引越しが売却より先になる為、事前決済をし、買主に先にお金を払ってもらう必要がある。
- 測量が古く境界石が無くなっており、確定測量による境界復元をする必要がある。以上を踏まえ査定額を出し、購入者を探した。
- 建物についている長男の債務差し押さえを解除する必要がある為、売買価格の範囲で土地・建物価格を按分し、更に建物持分に応じて長男の取得額を計算した。長男の売買代金取得額より債務の方がはるかに大きいので、資金計画を作成、役所の担当者に家族の現状を伝え共感をして頂き、元本の一部のみの支払いで差し押さえを解除してくれる約束を貰った。
- 隣地所有者に通行承諾を貰う為、話しに行ったところ引っ越してきてからの20数年気持ちよく過ごして来れなかったという事で、隣地所有者から「承諾書は絶対書かない!」と言われた。
- すぐに売却に取り掛かれるように事前に解体費、残置物撤去費の見積りを業者に出して貰った。
- ケアマネージャーと役所の生活保護課の担当者と連携し、お母さんとお父さんの引越先を探した。
4-3.関係者の善意を引き出し問題解決
- 隣地所有者の義理の息子さんを介し、隣地所有者である義父と話して貰うことにして、お互いの為にという事で納得して貰い、無事通行承諾書を発行して貰った。
- お母さんが途中で体調が悪くなり、急遽先にお母さんだけ医療介護の整った福祉施設へ移転。ご主人も日々の苦悩が重なったせいか、階段を転げ落ちて怪我をしてしまい、病院に入院した。生活保護の申請はしていたが許可は下りていない為、お母さんの福祉施設と、お父さんの病院へは費用を待って貰うように話しをした。
- 両親がいない間に次男と売買を早めに纏めようと相談し、先に測量をし、建物内の荷物を撤去、次男は引っ越して貰うことになった。測量と撤去費用はお金が無いので売買後に支払うという事で理解して貰い、次男の引越費用に関しては次男の会社の社長から借りた。
- このように両親がいない1カ月足らずの間に、売買を含め用意してきた事を順序だてて実行し、全てアッという間に整った。
売買決済時には、長男は仕事、お父さんが入院中の為出席できず、次男に代理人になって貰い、役所の滞納税金の支払い、病院や福祉施設の費用を清算、測量士と片付け業者へも全て支払った。 - 次男の債務については、お父さんへの貸付金債権と、お父さんが受取る予定の売買代金との相殺により、カードローンと次男の会社の社長からの債務を無事完済した。
⑤ 不動産相談コンサルタント:山田のコメント
今回のケースは、今の日本社会の中で誰もがなり得る可能性のある事だと思いました。行政や介護福祉のシステムの間で苦しんでいる方は少なくないように感じます。
年金収入が見込めなくなってきている現在の中、子供たちが親の生活を必死に助けていても、子供たちも生活が有るため、いづれ親子共に共倒れとなってしまう可能性があります。
行政のシステム、社会福祉のシステム、今の縦割りのシステムの中では専門家だからこそ、横の連携が出来ないのが実情です。
そんな中、不動産屋という立場として、一民間業者が横の役割を担い、行政・福祉介護事業者と携わりながら、一つの家族の命を救えたのは本当に良かったと思います。
今回は家族バラバラになってしまいましたが、生きていればいずれ一緒に過ごせる日が来ると信じ、T様家族の幸せを願うばかりです。
皆様には自分達には関係ない事だと思わず、苦しい時には出来るだけ早く相談して頂きたいと思います。